海堂尊「医学のたまご」すごくリアルに感じてしまう研究室で起こる事件


小説なのに、研究室で起こる出来事、人間関係、登場人物の性格、発言がむちゃくちゃリアルな気がした。

スポンサーリンク


医学のたまご


著者:海堂尊

出版社:理論社


概要


世界的なゲーム理論学者を父親に持つ中学生の曾根崎薫は、大学の医学部で研究をすることになる。


登場人物


曾根崎薫:中学1年生。潜在能力テストで1位を取る。

藤田要:大学の教授。薫を研究室に入れる。

三田村優一:薫の同級生で医者を目指している。

進藤美智子:薫の同級生で幼馴染。

曾根崎伸一郎:薫の父親で世界的なゲーム理論学者。

桃倉:博士号を取るために研究している。薫の指導員。

佐々木アツシ:飛び級の医学生として研究している高校生。


おもしろかった内容


世界的なゲーム理論学者の父親が、メールは返事をすぐ書いて削除する、即決即断ってのが、デキる研究者の典型やなって思う。

潜在能力テストを作ったのが薫の父親だと気付いた幼馴染の美智子が、いい点を取らないように平均点プラス5点くらいになるように正解を調整したってのが、父親の勝ちすぎるのはよくないって言葉を守ってるってくらい頭いいのがすごい。

教授会で教授たちが嫌味を交えながら会話している状況が、現実に近い感じが想像できてぞっとした。

藤田教授が薫に言った「研究をする上で一番大事なのはお金」って言葉に共感できる。

三田村や美智子に藤田教授からの課題を手伝ってもらってるのに、薫の評価が麦上がりしている状況がヒヤヒヤする。

薫が思い出した「閉じた世界は窓を開けろ。そうしないと必ず腐ってしまう」って父親の言葉が、閉鎖的な研究室の危うさを象徴している。

エラーでポジティブな結果が出た可能性があるのに、それを無視して教授が論文を投稿し、さらに追試をして同じ結果にならないのに、同じ結果が出るまで追試し続けろと言い、自分の都合が悪い結果は受け付けないっていう教授の態度が恐ろしい。何が恐ろしいかって、これがフィクションならいいけど、実際にこういうのに近い人がいるので、むっちゃリアルな描写やなって思った。

薫から大学で起こった出来事をメールで確認した伸一郎の返信に、悪質な人物の対処法としてアクティブ・フェーズとパッシブ・フェーズの2つの戦略があるってアドバイスがあった。自分もこの対処法をもっと早く知りたかった。しかも、どちらも相手次第で、無傷では済まないってのが、巻き込まれたら終わりやんって思ってしまった。

さらに、無意識のうちに楽な方を選ぶのが弱い人間の特徴、楽じゃない方を選ぶ人は変人と呼ばれ、その中で成功した人を勇者って呼ぶって言葉がむちゃくちゃ深い。

伸一郎が薫に送ったメール、

「君の行いが間違っていないのなら闘え。たとえ教授であっても、相手が間違っているのなら、全力で叩き潰せ。今こそ、君の心に飼っているサソリを解き放て。」

「囚えられしまった悪い流れの中で、難しいのはきちんと謝ることではない。その奔流の中でも、不当な非難には敢然と立ち向かうことだ。」

「何かをしたら、何かを失う。それが怖くて人は何もしなくなっていく。大切な人を失ってしまったと考えているかもしれない。でもそれは、ほんの束の間、君の前から姿を消すだけだ。」

って内容が、自分に言われているかのように感じた。薫の心情がむちゃくちゃ共感できる。


最後に


文体が会話形式なので、非常に読み易かった。中学生でも読み易くしてるって意味がわかる。

結局、問題のある教授は部下を犠牲にしてのうのうと生きていけるけど、研究室の内部の人も外部の人も問題があるって認識されているのが救いかな。

研究室のトップに問題があっても、学生は純粋に研究しているって研究室は結構多いのかもしれない。


関連書籍


スポンサーリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です